外国資本による原料買い占め。
それでも折れなかった、ものづくりの執念。

三鈴陶器(株) 代表取締役 熊本 泰弘さん

三鈴陶器(株)
三重県三重郡菰野町永井3098-1
TEL:059-396-0529
https://misuzu-c.com/

日本の「ものづくり」を支える町工場には、そこにしかできない素晴らしい技術や、人間味あふれる開発秘話など、伝えたいストーリーがたくさんあります。現場にあるそうした魅力をお伝えしていくのが当コラム「ものづくりの舞台裏」。
第3回にご登場いただくのは、三重県四日市市で萬古焼の窯元を営む三鈴陶器の熊本社長。創業間もない頃から熱に強いペタライトという鉱物を原料に、陶器を開発してきました。しかし、2023年、そのペタライトの価格が一気に数倍に跳ね上がってしまったと言います。いったい何があったのか、その危機をどう乗り越えたのか。編集員の葉名尻が突撃取材を試みました。

原料価格が突如3倍に。――新たな挑戦が動き出した。

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編集員 葉名尻

最初に伺いたいのですが、2023年に陶器づくりに欠かせない重要な材料であるペタライトの価格が一気に跳ね上がってしまったと。そんなこと、普通ありえるんですか?

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熊本社長

実は2、3年前から噂はあったんですが、窯元のみんなも半信半疑で。ただ2023年に生地屋さんから電話があって、『ペタライトの仕入れが本当に難しくなりそうです』と。それまでも多少の値上がりはありましたが、今回は桁が違った。3倍です

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編集員 葉名尻

3倍……!? どうしてそんなことに?

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熊本社長

電気自動車の需要増加に伴い、世界中でバッテリー用リチウムの争奪戦が起きていたんです。ペタライトにはリチウムが含まれているので、企業がそこに目をつけて、2022年にジンバブエの主要鉱山ごと買い取ってしまった。

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編集員 葉名尻

なるほど……。それまで“土鍋用の土”だったものが“リチウムイオン電池の原料”へと見え方が変わってしまったと。

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熊本社長

そうです。生地屋さんも『どうにか調達してみます』と動いてくれたんですが、価格が跳ね上がりすぎて、もう土鍋の原価として成立しない。ペタライトは使えない時代が来たんだなと腹をくくりました。“代わりの土”を探すところから、全部やり直すことにしたんです。

当時のことを語る熊本社長(左)と陶器の原材料であり命とも言える“土”(右)

[写真:左]当時のことを語ってくれた熊本社長。[右]陶器の原材料であり命とも言える“土”。見た目では分からないが、焼成すると違いは明らかになる。

土鍋を作るために、土から作る。
生地屋との試行錯誤がはじまった。

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編集員 葉名尻

新しい素材である『コージェライト』への切り替えは、生地屋さんとの二人三脚のチャレンジだったとか。

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熊本社長

本当にその通りで。新しい土を生地屋さんが練って、うちに持って来てくれるんですが……最初はどうやっても割れてしまうんです

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編集員 葉名尻

焼成の段階で?

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熊本社長

そうです。成形して焼いてみると“ピシッ”と亀裂が入ってしまう。仮になんとか形になったとしても、実際に火にかけてお米を炊こうとすると、また割れてしまう。生地の配合も、焼成温度も、乾燥も、全部見直してもダメ。試作しては炊飯、また試作しては炊飯。その繰り返しでした。

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編集員 葉名尻

どれくらいその工程を繰り返したんですか?

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熊本社長

ざっくり300回くらいですね。毎日毎日ご飯を炊いて、割れていないかを確認して。生地屋さんとは、毎日のように電話で『配合をこう変えましょう』と相談し合っていました。

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編集員 葉名尻

気が遠くなりますね……。

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熊本社長

炊飯中に土鍋が割れるとき『ピキーン!』という甲高い音がするんですが、その音を聞く度に心が折れそうになりました。でも、諦めたら事業が成り立たなくなってしまう。挑み続けるしかなかったんです。

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編集員 葉名尻

そして、ついに“運命の日“がやってきた?

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熊本社長

はい。忘れもしない、クリスマスイブの夜でした。試作中の土鍋を何個も並べて同時に炊飯して……その全部が割れずに、ふっくらとおいしいお米が炊けたんです。

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編集員 葉名尻

すごい……!

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熊本社長

思わず生地屋さんと飛び上がって喜びました。開発に半年以上かかりましたが、肩の荷が下りた瞬間でした。

丁寧に手作りされる作業風景

工程を教えていただくと、『手作りなのだ』ということにあらためて気づく。沢山の試作を経てなお、丁寧なものづくりが必要とされる。

それは、ゴールではなく新たなスタート。
“量産化”という壁に立ち向かう。

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編集員 葉名尻

試作が成功して、『これで完成!』という気持ちでしたか?

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熊本社長

いえいえ、実はそこからが本当のスタートです。試作は1個ずつ丁寧に扱える。でも商品化するには、量産しなければいけない。大量に成形して、均一に乾燥させて、焼いて、検査して……試作では問題なかったのに、量産ラインを通すと割れてしまう。

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編集員 葉名尻

それをどう乗り越えたんですか?

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熊本社長

結局、“基本に戻る”しかないんです。水分量、乾燥時間、厚み、焼成温度……全部をもう一度見直しました。『土がこう動くなら、焼成でこう逃がそう』っていう、経験と理屈のすり合わせですね。

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編集員 葉名尻

ペタライトからの転換って、原料の問題だけではなく、三鈴陶器の製造プロセスそのものを再設計するような作業だったんですね。

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熊本社長

まさにその通りです。生地屋さんにも協力してもらいながら、“新しい土鍋を作る会社”としての土台を組み直した感じですね

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編集員 葉名尻

市場からの反応はいかがでしたか?

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熊本社長

ありがたいことに、『割れにくい』『使いやすい』という声を多くいただきました。原料の大問題が、むしろ新しい価値につながったと感じています。

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編集員 葉名尻

慣れ親しんでいた原料が使えなくなる。そんな、大ピンチを三鈴陶器さんは“進化の兆し”に変えてしまった。クリスマスイブにようやく成功した試作の話を聞きながら、ものづくりへの執念に胸を打たれました。どんな壁にぶつかっても、柔軟に対応する。そのしなやかさこそ、三鈴陶器の“強さ”だと感じます。熊本社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

三鈴陶器のバライエティ豊かな土鍋たち

三鈴陶器のバライエティ豊かな土鍋たち。ご飯を炊かれるその日を、工場で待っている。

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