衝撃の瞬間、
今からお見せします。

カラヤン(株)

#04 カラヤン(株)
愛知県犬山市字大上戸1-8
TEL:0568-67-5191
スポンジをはじめとする各種素材に粘着剤を塗布し、スリット加工や打ち抜き加工までワンストップで手がける粘着加工会社。

「ほら、衝撃的でしょ?」

夕陽の射し込む会議室が、しんと静まり返る。匂坂(さぎさか)顧問が、石鹸大のアクリル板を机の上に置く。次に取り出したのは、パチンコ玉。その一挙手一投足を、我々編集部のメンバーは固唾を呑んで見守る。一体これから何が起きるのだろう。

「こちらの面には、何も貼っていません」。パチンコ玉を、30センチほどの高さから落とす。コツン!という落下の衝撃音とともに、玉はアクリル板の上で何度かパウンドした。そうそう、ふつうはこうなるよな。心の中でつぶやく我々の様子を確認しながら、匂坂顧間はアクリル板を上下逆さまにひっくり返す。いよいよここからが本番だ。「こちらの面には、衝撃吸収フィルムが貼ってあります」。パチンコ玉を落下させると、ピタッと止まった。全く跳ねない。吸い付くように、玉は静止している。「おー!」という歓声が一斉に上がる。「どうなっているんですか!?」「これ、フィルムを貼っているだけですよね?」「粘着剤で玉がくっついたんですか?」編集部の面々は驚きを隠せない。「当社の粘著加工技術でつくった200ミクロン(0.2ミリ)の膜です。あくまで衝撃を吸収する素材。くっつけているわけじゃない。衝撃的でしょ?」強面の匂坂顧問が、少年のようにニッコリ笑った。

パチンコ玉での衝撃吸収フィルムのデモンストレーシェンで取材班が驚くのを横目に、笑みを浮かべる匂坂顧問。

ビルの9階から玉を落下。
唯一割れなかった製品。

カラヤン株式会社は、粘着加工のスペシャリスト集団。冒頭の衝撃吸収フィルムは、同社の新規事業創出の取り組みとして誕生。平成25年度「名古屋市工業技術グランプリ」では「名古屋市工業研究所長賞」に輝き、次世代技術として今、注目を集めている。当初はスマートフォンやタブレットの画面保護を目的に売り込んだが、思わぬところから引き合いがあったという。「高速道路のトンネル内に、非常口の標示板があるでしょ。あれがよく割れちゃうんです。走行するクルマが跳ね上げる飛石で、年間数十枚も。強化ガラスを使用しているにもかかわらず。そこで、この衝撃吸収フィルムについて問い合わせをいただいたんです」。

その会社は他にもいくつかの会社から衝撃吸収フィルムを取り寄せ、強化ガラスに貼り付け、ビルの9階からパチンコ玉を落とす衝撃試験を行ったそうだ。他社製品がことごとく割れてしまった中、唯一割れなかったのが、カラヤン製品だったという。その後採用となり、「1年以上経っても、1個も割れていない」と匂坂顧問は胸を張った。

[写哀:左]3人がかりで粘着シートを貼る。慎重な様子に、見ているこちらも思わず緊張してしまう。[右]集中しながらも、余裕を持って作業している方が多いという印象を受けた。これも日々の改善の賜物か。

不良品撲滅に向け、
地道な努力を徹底。

カラヤンの主力事業はというと、スポンジなどの粘着加工だ。自動車のシートやエアコンの断熱材、コピー機のトナーカートリッジなどに使用されるスポンジを指定された箇所に貼り付けられるよう、粘着剤を塗布する。ひと言で表すなら、紙テープならぬ「スポンジテープ」をつくる加工。粘着剤を塗布し、乾燥させ、さらには指定の形状に成形する二次加工まで自社工場で完結する。この一貫体制を武器に、受注を獲得していった。「ただくっつくだけじゃなく、熱などで剥がれないことも必須。一方で、剥離紙を簡単に剥がせることも求められます」。

品質をめぐっては、クレームが発生することもこれまでに何度もあったという。そのたびに納入先の工場へ駆けつけ、原因を究明。対策を徹底し標準化していった。特に苦しめられたのが、剥離紙が剥がれにくくなる現象。乾燥炉の中で一定時間以上滞留することが原因であると突き止め、5分以上滞留させてしまったものは全数廃棄することをルール化した。今では、同様の品質不良はほぼ発生していないという。

カラヤンで加工したスポンジを製品に貼り付けるのはお客様だ。そのお客様固有の製造工程に合わせ、品質を改善しつづけた。あらゆる要望に応えつづけた結果、今では1000種を超える加工を手がけるまでに。地道な努力の積み重ねが、カラヤンを支えてきたのだ。

[写真:左]剥離紙を貼る様子、さまざまな工程で機械化が進めど、変わらず手作業が大車な工程だ。[右]3種あるという、大型カッターのうちの1台。少しの力で、美しい断裁を可能にする。出荷前の製品に囲まれて。大人も見えなくなるような大きなものなど、さまざまな形状・長さの筒が居並ぶ何とも不思議な光景。

赤字と考えるか。
先行投資と考えるか。

一方で、目の前のニーズに応えるだけでは、いつか立ち行かなくなるという。「これまで会社が存続してきたのは、変わり続けてきたから」。匂坂顧問は1973年の入社当時をこう振り返る。その頃の主力事業は2つ。ひとつはウレタンフォームのマットレス製造。利幅の小さい安価なマットレスを繊維問屋に販売していた。もうひとつは自動車のシートカバー製造。当時の自動車シートは塩ビ素材だったため、冬はヒヤッと冷たく、夏は座れないほど熱い。そのため、座面部分の温度変化を軽減するシートカバーは、飛ぶように売れたという。

かたやその頃、粘着加工はというと、前年にスタートしたばかりの新規事業に過ぎなかった。「1人のスタッフが手作業でやっていました。完全に赤字。お荷物部門でしたね」。それでも当時の経堂陣は、将来きっと花開くと信じ、大事に育てていった。そして思惑通り、大輪の花を咲かせた。匂坂顧問は言う。「おかげで今、粘着加工が売上のほとんどを占めるまでに成長しました。でも、今の事業で飯が食えている間に、次の柱を立てなきゃいけない。同じことをやっている会社は、必ず衰退しますから」。技術の進化とともに、シートカバーというマーケット自体がほぼなくなった現状が、その言葉の正しさを物語っている。粘着加工の事業においても、製品のモデルチェンジにより、1000万の月商が、翌月にはゼロになるという事態も経験したという。危機感を持ち、先手先手で動いてきたからこそ、今のカラヤンが存在する。「最初は赤字でも、それは赤字とは呼ばない。先行投資なんです」。

「おー、すごい!」って、おじさんだれ?(笑)

新たな芽は、衝撃吸収フィルムだけではない。夕陽に赤く染まる会謹室。今度もやはり、石鹸大の石を机の上に置く。「高輝度蓄光材料」で表面処理された石。これが光るのだという。「ちょっと暗くしますね」と電気を消す匂坂顧問。手に取った懐中電灯をオンにし、石の表面に押し当てる。数秒後、懐中電灯を離すと、押し当てていた円形部分だけが緑色に輝いている。その予想を超える明るさに我々は思わず「おー!」という歓声を上げる。「こっちが先発メーカーのもの。で、こっちがうちの蓄光。全然違うでしょ?」2つを並べると、差は歴然だった。「これを居酒屋でやったらね、隣にいた知らないおじさんまで、『おー、すごい!』ってびっくりしちゃってね(笑)」。

この蓄光材料を屋内の避難経路に貼っておけば、停電時の誘導が可能になる。道路の緑石に塗り込めば、暗い夜道の道しるべになる。用途はいくらでもありそうだ。主力事業の粘着加工から、こうした新技術が派生した理由を匂坂顧問は教えてくれた。「我々のコア技術は、『塗る』なんです。ふつうの粘着剤の代わりに制振粘着剤を塗ることで、衝撃吸収フィルムは生まれました。蓄光顔料を塗ることで、高輝度蓄光材料が生まれました」。塗る対象は、スポンジじゃなくてもいいのだ。用途は、『貼る』じゃなくてもいいのだ。「長い間、幅広い分野で可能性を探ってきましたから。おかげで今、いくつかの製品に関して、事業化への道筋が見えつつあります」。そして最後にひと言、とびつきりの笑顔で付け加えた。「しかし、皆さん驚いてくれて嬉しかった。やった甲斐あったよ(笑)」。

カラヤン(株) 匂坂顧問

出荷前の製品に囲まれて。大人も見えなくなるような大きなものなど、さまざまな形状・長さの筒が居並ぶ何とも不思議な光景。

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