
(株)東海
三重県桑名市長島町葭ケ須750-2
TEL:0594-42-5051
https://tokai-inc.com/
日本の「ものづくり」を支える町工場には、そこにしかできない素晴らしい技術や、人間味あふれる開発秘話など、伝えたいストーリーがたくさんあります。現場にあるそうした魅力をお伝えしていくのが当コラム「ものづくりの舞台裏」。今回ご登場いただくのは、三重県桑名市で自動車部品の塗装を手がける株式会社東海の佐藤社長。テーマは、多くの同業者が敬遠してきた“補給部品の塗装”を請け続ける理由です。注文は滅多に来ない。利益は出にくい。半面、管理の手間は膨大。それでも東海は、この泥臭い仕事を手放しませんでした。
誰もやりたがらない仕事が、新しい仕事につながっていく。

今日は「自動車補給部品の塗装」をテーマにお話を伺えればと思っています。そもそも補給部品の塗装って、どんな仕事なんですか?

自動車って、モデルチェンジしたら工場での量産は終わるじゃないですか。でも、事故や故障で修理用の部品が必要になることはその先もずっとある。トヨタ自動車は、販売終了後も20年間は部品供給を続けると約束しているので、私たちが古い車種の部品を保管して、いつでも塗装できるようにしているんです。

いつでもって…どれくらいの頻度で注文が来るんです?

月に1、2本です。正直、全然儲からないですよ。しかも注文が来てから2日後には出荷しなくてはいけない。大急ぎで部品を倉庫から持ってきて、大昔の仕様書を引っ張りだして、塗装して発送するんです。数千種類に及ぶ部品を保管するだけでもコストがかかる。利益だけ考えたらまったく割に合いません。

それでも、東海さんは補給部品の塗装を続けてこられた。その理由はどこにあるのでしょうか。

理由は単純で、「困っている人がいるから」です。トヨタ関連企業の中でも大昔の部品を大量に保管して、過去の仕様通りに正しく塗装できる会社ってほとんどない。また、補給部品の仕事単体では儲からなかったとしても、「東海なら何とかしてくれる」という信頼が積み上がれば、結果的に量産部品の仕事にもつながる。この仕事を数十年間続けているのは、新たな仕事を絶やさないための経営戦略でもあるんです。

[写真:左]塗装後に除電ブローを行い、静電気による微細なゴミを除去する工程。東海の代名詞である丁寧な手作業が高品質を支えている。[写真:右]美しく仕上げられたパーツが所狭しと並ぶ様子は圧巻。しかもそれらの多くが相当に古い車のパーツだと知らされ、タイムスリップではないが不思議な感覚を覚えた。
面倒に応えるための努力が、会社を新しく、そして強くした。

補給部品の塗装は、在庫管理や情報管理がとにかく大変だと伺いました。実際、どのように対応されているのでしょうか。

この仕事をやる以上、「覚悟」だけではなく「仕組み化」が必要です。気合いだけでは絶対に続かない。だから、ITシステムの導入にはかなり力を入れてきました。

具体的にはどんな仕組みを?

まず、部品ごとの塗料の種類、配合、工程条件をすべてデータで保管しています。20年以上前の部品でも「この注文はこの条件で塗る」と、誰もがすぐに分かる状態にしている。倉庫の在庫管理も同じで、数千種類にも及ぶ部品の保管場所を即座に把握できます。

その仕組みがあるから、短納期にも対応できるんですね。

その通りです。これだけ膨大なデータをアナログで管理していたら、とても2日では出せません。日頃から、“そういう仕事が来る前提”で準備しているから、すぐ動けるんです。

一方で、注文は月に1~2個なんですよね?

普通に考えたら、請けない方がいいです(笑) でも、この仕事のために整えた在庫管理システムやデータ管理の仕組みは、他の仕事にも全部活きています。突発対応や小ロットの仕事にも強くなりました。

補給部品が、会社全体の底力を鍛えたわけですね。

まさにそうです。補給部品の塗装は“泥臭い仕事”ですが、それを続けるために整えた仕組みが、結果的に会社を強くしてくれた。続けてきて、本当に良かったと思っています。

[写真]徹底したデータによる管理が、工場のさまざまな風景から垣間見える。
効率より信頼を選んだから、選ばれ続ける会社になれた。

これだけデジタルによる仕組み化を進めている一方で、塗装自体はロボット化していない。その理由も印象的でした。

ロボット塗装も検討したことはあります。でも、補給部品や緊急対応を考えると、うちには合わなかった。

なぜでしょう。

ロボットは、量産には向いています。でも、新しい部品を塗装する際には、ティーチングに時間がかかる。早ければ数週間、場合によっては数か月です。補給部品は「今すぐ」が求められる仕事なので、ロボットにいちいち教えていたら間に合わない。

だから、手吹き塗装を続けているんですね。

ええ。手吹きなら、形状を見てすぐ塗れる。凹凸の奥まで入り込めるし、少量でも対応できる。補給部品に限らず、突発的なトラブル対応でも、うちはすぐ動ける。それが強みです。

実際、大手工場のライン停止時にバックアップに入ったこともあったそうですね。

そうですね。取引先の工場で火災が発生し、ラインが止まってしまって。「代わりにできるところはないか」と声がかかったんです。うちは手吹きだから、イレギュラーな注文にもすぐに対応できた。3か月間、昼夜フル稼働で、一度も納期を遅らせることなく納品しました。

相当大変だったのでは。

正直、きつかったです(笑) でも、そのときに思いました。「ここで踏ん張れば、信頼が生まれる。その先の仕事も生まれる」って。実際に、その会社からの仕事は今でもずっと続いています。

効率よりも、信頼を優先した結果ですね。

はい。補給部品の仕事も同じです。儲かる仕事ではない。でも、困ったときに頼られる会社でありたい。その積み重ねが、今の東海をつくっている。これからも顧客の困りごとから逃げずに、真正面から向き合える会社でありたいと思います。

[写真:左]塗装もさることながら、検品や梱包にも丁寧な手作業が光る。多様な国籍の従業員の方々が、それぞれの持ち場で真剣に働く様子も印象的だった。[写真:右]熱のこもった話を聞かせてくださった佐藤社長。